あおり運転を誘発するような
ドライバーにも責任はある? 筆者:高根 英幸
東名高速道路での悲惨な追突事故以来、あおり運転が社会問題化し、今年6月には「妨害運転罪」が新設されたものの、相手のちょっとした行動にカッとなってあおり運転をしてしまい、検挙されるケースが続出しています。
こうしたあおり運転が報道される度に、インターネット上では「あおられる原因を作ったドライバーにも責任はある」という意見が見られたり、それをテーマとした記事を見かけます。
確かに、制限速度以下でノロノロと走るクルマに遭遇すると、イライラしてしまう気持ちも分からなくはありません。イライラして車間距離を詰めて速度を上げるようにせかしたくなるかも知れませんが、絶対に行なってはいけない行為です。なぜなら、これはクルマを使った暴力に他ならないからです。
道路交通法では、後続車に追い付かれたクルマの運転者に対しても運転操作を制限しています。それは27条の「追い付かれた車両の義務」という条項で、法定速度以下で走行している場合、後方から追い付いてきた車両がいた時には、運転者はクルマを左に寄せて進路を譲らなければならないと定めています。また、後方から追い越されようとする時には、加速して速度を上げることも禁じられています。
これはまだ交通量が少ない昭和36年に制定されたものですが、未だに改正されてはいませんから、有効な法律です。走行しているだけで、後続車両に進路を譲らなかったからとパトカーや白バイに検挙されることはありませんが、交通事故など何か問題が生じた時には、ドライバーの責任の重さを判断するために適用されることになります。
一般道では制限速度よりゆっくり走るのは認められていますが、周囲のクルマに迷惑を掛けないよう、左に寄せて走り、先を急ぐクルマに進路を譲る必要があるのです。
つまり動画投稿サイトなどで再生回数を稼ぐために、わざとゆっくり走って後続ドライバーのあおり運転を誘発させるような行為は、道交法上からも禁止されている、ということになります。
それでも、先を急いでいるのに譲ってくれないからといって、あおり運転をすることは認められません。この場合のあおり運転とは、車間距離を詰めて迫ったり、ヘッドライトをパッシングしたりホーンを慣らしたり、ステアリングを左右に動かして車体を揺さぶって威嚇するような行為です。
後続のドライバーにとっては、自分の意思を相手に伝えたい、という思いからくる行為であっても、これらは認められない運転操作なのです。
最近はドライブレコーダーの普及も進み、またスマートフォンなど簡単に録画できる環境が誰にでも整っていますから、自分の感情に任せてあおり運転をすると、現行犯ではなくても検挙される可能性が高まっています。現に、ニュースでは、ドライブレコーダーの映像からあおり運転のドライバーとして特定され、逮捕されるケースが何件も報じられています。
あおり運転などの行動をしてしまう人間の心理には、ある一貫性が見受けられます。それは自分の権利を侵害された、という感覚から来るものです。クルマの室内は密閉された空間で、ドライバーは自分の思うままの進路を自由に進んでいけることから、それが当然という感覚になり、自分のペースを乱されることに苛立ちや怒りを覚えてしまうのです。
道路交通はあくまで皆のものであり、個人や地元民だけが特別な権利を有している訳ではありません。ローカルルールを知らない観光客や運転に不慣れなドライバー、慎重に運転するドライバーのクルマをあおり立てて自分のペースに従わせようとするのは、それが正義感から来る行動であっても許されることではないのです。
たとえ先行するクルマがノロノロ走っていたとしても、それが危険な行為や事故を誘発する原因ではなければ、罪に問われるようなことはまずありません。つまり、わざとあおり運転を誘発するような運転をしていた、と認定されなければ、後方からあおり運転をしたドライバーが全面的に悪いことになります。
日々の運転や移動で忘れがちなことですが、クルマの運転とはこれほどまでに危険で責任ある行為であることかを再認識しましょう。自分の運転能力を過信して周囲のドライバーよりも自分のクルマを優先させるような、強引な行動はこれからは絶対に慎まなければならないのです。