完全自動運転の実現は、まだまだ遠い未来? 筆者:高根 英幸
自動運転の開発も随分進み、実証実験が公道で行なわれる段階になりましたが、その結果各地で様々な事故が起こっています。
8月20日には滋賀県で実証実験中の自動運転バスがUターン地点で曲がり切れずに、歩道上の柵に接触する事故を起こしてしまいました。これは運転手が乗車したレベル2の自動運転バスで、自動運転では曲がり切れないと判断した運転手が、咄嗟にハンドルとブレーキを操作したものの、接触を回避することはできませんでした。
しかも柵と衝突したのは、障害物を検知するLiDAR(赤外線レーザーレーダー)センサー部分だというのですから、何とも皮肉なものです。自動運転の制御は理論通りにはいかないことを、改めて思い知らされたと言える出来事でした。
クルマよりはるかに制御がシンプルな電車の自動運転でさえ、絶対に誤作動はないと言い切れないのです。昨年の横浜シーサイドラインの逆走事故は、まだ記憶に新しいところではないでしょうか。
昨年は愛知県で電動ゴルフカートをベースにした自動運転車が公道上での実証実験中にも、右側を通過しようとする車両が接近しているにも関わらず、右に進路を変更して接触するという事故を起こしています。これは低速走行中で、自動運転の制御コンピュータにも余裕があり、しかも運転席には開発エンジニアが乗車していたにも関わらず、非常停止ボタンを押す余裕も無かったようです。
人間は、突然のハプニングに対して、瞬時に適確な行動が取れないものです。それをこの接触事故は証明しています。
また2年前にアメリカでUberが公道実験中に起こした死亡事故は、最近になって運転席に座って監視していたエンジニアが起訴されています。理由は自動運転走行中に前方への注意を怠ったという過失が認定されたからです。これが実証実験ではなく、実用化された個人オーナーの車両であれば、どうなったでしょう。
自動運転が搭載されたクルマを購入するのは、長時間のドライブで疲労時、あるいは渋滞時に運転を代わってもらうなど、自分の代わりに運転を任せ、その間はリラックスして休みたいと思っているドライバーばかりです。
にも関わらず、自動運転中も絶えず前方に注意を払い続けていなければならないのですが、その集中力を維持し続けるのは、なかなか大変です。うっかり居眠りなどしようものなら、万が一事故が起こりそうになった時に、回避行動を取れる訳がありませんから、気は抜けません。
レベル3の自動運転では、走行中に運転者が前方から視線を外すアイズオフが認められるようですが、実際には自動運転コンピュータから運転交代の要請が出た時には、瞬時にドライバーは運転を代わって、安全に走行を続けなければならないのです。
クルマは、熱や振動といった外部からの刺激、静電気の発生や、車両内を流れる電流の電圧変化など、コンピュータにとって有り難くない要素がいくつもある環境にあります。インターネットとつながりながら走るコネクテッドカーとなれば通信環境の変化や、悪意のある外部からのアタックなどにも備えた、より強固なシステムが要求されるのです。
完全自動運転の実現を心待ちにしているドライバーは、決して少なくないでしょう。しかし、自動運転となっても、車両の動きは乗車中のドライバーが負うのが大前提ですから、むしろ自動運転中も周囲や自車の動きに気を配り続ける自制心が要求されることになりそうです。
そう考えると、自動運転は渋滞時に車間距離を保ちながら道路に沿って走ってくれるレベル2あたりが、もっともドライバーとの共同作業としてバランスが取れているという見方もできます。
技術の進歩によって便利になるのは素晴らしいことですが、人間が楽をするためだけのシステムは、人を退化させ老化を早めてしまうことにつながりかねません。
クルマの運転には、認知と判断力に優れた脳機能、そして反射神経と、細やかな操作を実現する身体機能が要求されます。このコラムでも今後は、いつまでも運転を楽しみ、安全で快適なカーライフを送るためのヒントなどもお伝えしていく予定です。