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これからますます運転の責任が問われる時代に 筆者:高根 英幸

池袋暴走事故の一審での判決が確定しました。検察の禁固7年という求刑に対し、下された判決は禁固5年というものでした。この判決に対して「軽過ぎる」、「実際に収監されるのか」という意見がネット上に溢れています。

そして注目すべきは、裁判長以下裁判官は被告が主張した「クルマの欠陥説」を一切認めず、飯塚被告のペダル踏み間違いが原因であると断罪したことです。

足先の繊細な動きがクルマの動きを決めるのが運転操作であるのに、歩くこともおぼつかない人が「踏み間違いはない」と言い切るところに、認知機能の低下すなわち高齢ドライバーの危険性を感じさせることを改めて感じた人も多いのではないでしょうか。

また見方を変えれば、歩行が困難なほど足腰が弱り、正確な操作を期待できない人に免許を更新させてしまった免許機構にも責任の一端があるのではないでしょうか。ともあれ事故以来、免許更新制度が見直されているなど、高齢ドライバーに対する運転技能の確認はこれからも厳格化されていく方向になるのは間違いありません。

2022年9月からはクルマにEDRの搭載が義務化されることになったことも、この交通事故が影響していることは明白です。

EDR(イベント・データ・レコーダー)は以前のコラムでも紹介していますが、運転席のハンドルに装備されているエアバッグを制御するECUの内部に組み込まれている記録装置で、衝突事故などの際に衝突の5秒前からエアバッグが展開を完了するまでの間の車両の様々なデータを記録します。

それは車速やエンジンの回転数、車体に発生している様々な方向の力、ブレーキなどが正常な機能を有しているかという車体の状態に加え、ステアリングの角度やアクセルペダル、ブレーキペダルの踏み込み具合などドライバーがどう操作しているかまで含まれています。

そのため衝突事故を起こした際に、クルマに異常があったのか、ドライバーは衝突回避のための運転操作を行なっていたのかが、後から確認することができるのです。今回の事故もクルマには一切問題が無く、被告がアクセルペダルとブレーキペダルを踏み間違えたことが原因であることを証明し、裁判官はドライバーであった被告を断罪しました。

一方、自動運転も現在レベル3まで実現していますが高速道路の渋滞時だけが対象であり、しかもすぐに運転を代われる状態でいるかドライバーの見張り役となっている部分も大きいのが現状です。つまり、現時点ではドライバーの運転操作は、従来より監視されている傾向が強まっているのです。

これらの状況を重ね合わせると、これからますますドライバーの運転操作に対する要求は高まっていくことが予測できます。ドライブレコーダーや防犯カメラ、スマートフォンでドライバーの運転は「周囲から見られ、記録されている」ことを意識することが必要でしょう。

一般的にドライバーの運転能力は、40代でピークを迎えると言われています。20代の頃は若く反射神経などの身体能力に優れていますが、運転操作自体が未熟で、そのため交通事故も起こしやすい傾向にあります。30代になると運転レベルが向上してきますが、まだ運転に余裕がない部分も多く、周囲への配慮などが十分でないために交通事故を起こしてしまうケースもあるようです。

40代になると身体能力は衰えてきますが、運転経験の豊富さからそれをカバーすると共に、安全への意識が高まり慎重な運転を心がける余裕が生まれます。この身体能力と運転経験のバランスがピークに達するのが、この40代なのです。

50代以降は身体能力の衰えが顕著になっていくことになります。さらに60代以降では認知・判断する能力も低下していくことにより、運転の能力が落ちていくことは避けられません。そうなる前の40代から、50代、60代で運転能力を維持することを心がけることが重要なのです。

視力や反射神経、筋力、柔軟性などの身体能力は加齢によって衰えていきますが、意識してケアすることにより、衰えを最小限に、ゆっくりとしたものにすることは可能です。

また衰えを自覚して、それをカバーすることを考えた運転としていくことも、安全な運転操作のためには効果的な方法でしょう。運転経験積み重ねによる慢心にも注意が必要です。

歩行や運動などがつらくなってもクルマの運転はできることから移動手段をクルマに頼っていると、さらに体力や身体機能が衰えてしまうと運転することも難しくなって、結果として危険なドライバーとなってしまいます。

「交通事故の犠牲者を1人でも減らすために」、というのは少々構え過ぎかもしれませんが、自分自身が交通事故を起こしたり巻き込まれたりしないためにも、これからはより積極的に運転のことを考えて行動することをお勧めします。

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