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緊急ブレーキは右でなく左足
でもなく両足で踏むべき理由 筆者:高根 英幸

ペダル踏み間違い事故は連日、日本中で起こっていることが報道されています。実は、ペダル踏み間違い事故は高齢ドライバーだけが起こしている訳ではありません。しかし、高齢ドライバーの方が事故の被害が大きい傾向にあること、それと高齢ドライバーの暴走事故に世間が注目しているため、ニュースとして取り上げると反響を得やすいということも理由のようです。

高齢ドライバーの方がペダル踏み間違いにより事故を起こしやすいのは、認知機能の低下だけが原因ではありません。体力の低下や関節の可動域の減少、神経系の障害など加齢により運転操作が正確に素早くすることが難しくなっていきます。

こうした運転機能の低下を補う対策として「補償運転」という考え方があります。これは衰えた運転能力を別の方法で補うものです。例えばクルマを運転する前日は早めに就寝して十分に睡眠を取る、運転中の休憩は小まめにとって疲労を溜めない、夜間の走行は避けるといった環境面から運転能力の低下の影響を抑える対策。さらに運転操作でも対策することができます。

ペダル踏み間違いを防ぐには、ペダル配置がシートの中心に対してオフセットしていることが少ない車種を選ぶ、正しい運転姿勢で運転するといったことも有効ですが、それでも高齢ドライバーの場合ペダル踏み間違いを防ぎ切ることはできません。

高齢ドライバーのペダル踏み間違い事故が深刻化しているのは、アクセルペダルを踏み込んだ右足を、ブレーキペダルに踏み換えることがなかなかできないことも大きな理由です。若年層に多い運転経験の少なさからくるペダル踏み間違い事故は、踏み間違いに気付いた時点でブレーキペダルに素早く踏み換えているため、事故の被害を比較的抑えることができています。

では、高齢ドライバーの場合、ペダルを踏み変えることが難しいことを、どうカバーすればいいのでしょうか。

これはペダル踏み間違い時だけでなく急ブレーキを踏む時など、強くブレーキをかける時に効果的な対策としても覚えていただきたいことです。

それは左足ブレーキではなく、ましてや右足ブレーキでもありません。正解は両足ブレーキです。もしもの時には両足でブレーキペダルを踏むということを知識として頭に入れ、できればクルマで出掛ける日は最初の出発前に、両足で一度強くブレーキペダルを踏んで身体に覚えさせておくことをお勧めします。

これはドイツのサーキットなどで行なわれるドライビングスクールでは、クルマがスピンモードに陥った際には両手をステアリングから離し、両足でブレーキペダルを踏み付けるように教えるところも存在します。これはステアリング操作を行なうことでよりクルマの動きが複雑化して、さらに被害が拡大することを防ぎ、ブレーキの能力を最大限発揮させることで、なるべく短い距離でクルマを停止させるのです。

高齢者は足の筋力も衰えていることから、急ブレーキは両足で踏むことで、最大限の制動力を確保できます。そしてペダル踏み間違いなどパニックに陥りそうになった場合も、ペダル踏み間違いを認識して「左足でブレーキペダルに踏み変える」と考えるのではなく、「両足でブレーキペダルを踏む」と考えることで、より早くブレーキを作動させることが可能になります。右足はアクセルペダルを踏んでいるため、エンジンの駆動力もタイヤに伝わるため即座にクルマを停止することはできませんが、加速力を低下させることでパニックになることを抑えることも期待できます。

最終的には衝突事故を起こしてしまったとしても、ブレーキペダルを踏んでいるのといないのでは、被害は大きく異なります。衝突エネルギーは速度と車重の乗(掛け算)で決まります。速度を落とせることは、衝突時の被害軽減には確実に効いてくるのです。

高齢ドライバーの方だけでなく、40代以上の高齢ドライバー予備軍の方にも知識として覚えておき、イザと言う時には実践できるようにしていただけると、交通事故の被害を抑えられるのではないでしょうか。

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