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制限速度には理由があります
新東名の最高速度について 筆者:高根 英幸

昨年12月22日から、新東名高速道路の最高速度が時速100キロメートルから120キロに引き上げられたことはご存知でしょうか? 一部区間で試験的に導入されていた段階を経て、6車線化と合わせて静岡県区間の最高速度が引き上げられたのです。

これは昭和38年に名神高速道路が開通して以来、初めての最高速度引き上げとなるもので、運転好きの方々にとっては「ようやく…」といった感があるのではないでしょうか。

実は高速道路の設計自体は、70年代から高速化されていました。最高速度100キロの東名高速や名神高速だけでなく、近年最高速度を100キロに引き上げた全国の自動車道の一部区間は、元々設計速度が120キロの緩やかなカーブで構成されています。

クルマの高性能化も合わせて、交通のポテンシャル的にはすでに時速120キロの最高速度は有していたのです。それでも高速道路の最高速度を引き上げると、交通事故が増える、事故が深刻化するという理由で(あるいは速度超過の取り締まりがやりにくくなる?)警察庁がなかなか首を縦に振らなかったというのが実情のようです。

しかし新東名という素晴らしい道路環境、そして省燃費と高速化を両立したクルマの最新テクノロジーに、ついに最高速度の引き上げを認めざるを得なかったのでした。

しかし最高速度が引き上げられたことを手放しで喜ぶことはできません。なぜなら高速化による新たなリスクは当然、発生するからです。

まず気を付けたいのは「あおり運転」による交通トラブルや行政処分のリスクです。最高速度が引き上げられたからといっても、すべての乗用車が最高速度近辺の速度を維持して走行することにはなりません。

とくに昨今は省燃費を心がけるドライバーも多く、最高速度100キロの区間でも80キロ前後で走行するクルマが非常に多くなっています。そういったクルマに追い越しをかけるクルマの中には、120キロ以下の速度で追い越し車線を利用するケースもあるでしょう。その時、後方から120キロ前後で後続車が迫ってきた場合、どのタイミングで左に寄って進路を譲るかが問題になってきます。

もし貴方が追い越しをかけている途中の前走車のドライバーであったら、追い越しを一端諦めて左に車線変更して進路を譲るか、加速して120キロ前後に車速を高めて速やかに追い越しを終えるか、早めに判断しなければなりません。後続から追い付こうとしているドライバーであれば、前走車の動きに注意して接近し過ぎないようにした方がいいでしょう。

また大型トラックは80キロでリミッターがかかるため、120キロで走行すれば速度差が40キロ以上になってしまうことになります。さらに実際には登り勾配などではトラックの速度が低下するため、50キロ以上の速度差になることもあるでしょう。追い越し後に走行車線に戻る際など、前走車との速度差には気を付ける必要があります。

そして実は高速道路よりも気を付けなくてはいけないのは、むしろ一般道の制限速度に対する注意です。一部の自動車専用道路では最高速度が時速70キロになっていますが、一般的には制限速度は30キロから60キロの間で定められています。

この制限速度は道路の幅だけで決められている訳ではありません。交通量や地域住民の道路の使い方など、様々な状況を考慮して定められています。そのため比較的広い道路でも40キロ制限の道路もあれば、狭い道路なのに40キロ制限の道路も存在しているのです。

そんな中、30キロ制限の道路とはどんな道路でしょう。住宅街の中を住民だけが使うような道路、あるいは郊外でもすれ違いが難しいほど狭い道路など交通量が少なく狭い道路を思い浮かべるのではないでしょうか。一見、30キロ制限とするほど、走りにくい道路には見えない地点も存在していますが、それを単に道路行政の対応の遅さで古い制限速度のまま、と思い込むのは危険です。

実際、徐行しなければならないようなシーン(ショッピングモールやスーパーの駐車場内での移動など)でも、30キロ前後のスピードでスイスイと走り抜けていくようなせっかちなドライバーや、前のクルマとの車間距離だけで車速を調整しているような、速度感覚に乏しいドライバーを見かけることも多く、30キロ制限の道路を50キロ近い速度で通過しているクルマも見受けられます。それがいかに危険な行為であるか、理解しているとは思えません。

筆者には、忘れられない衝撃的な経験があります。それは3年ほど前のことです。自宅近く、小学校の前も通過する30キロ制限の道路を、ほぼ制限速度で通過していた時のことでした。斜めに交差する路地から突然、子供用の自転車に2人乗りした小学生が、目の前を横切って走り抜けたのです。

進行方向に対して8時くらいの角度で交差していて見えない上に、自転車が来た方向は下り坂となっており、そこから勢いをつけて走ってきたのでした。ゆっくり走っていたからすぐに停止できましたが、これが40キロ以上の車速であれば、自転車と衝突事故を起こしていたかもしれません。思い出すだけでゾッとする出来事でした。

時速30キロと40キロはわずか10キロしか速度差がないと思われるでしょうが、見方を変えれば3割も車速が増え、接近スピードが速くなっているだけでなく、衝突時のエネルギーは8割も増えることになるのです。

どうか、このコラムを読んでいただいている方々におられましては、悲惨な交通事故に遭わないよう、十二分に周囲の交通に注意して運転をしていだだきたいと思うのです。

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